
大人の斜視、見た目と見え方の両方をどう考えるか
斜視について、症状・相談先・治療の選択肢・費用や手続きを一般向けに整理したコラムです。
人と話すときに目線が合っていないと言われた。集合写真で自分だけ目の向きが違う。大人になってから斜視が気になり始めたとき、「見た目を理由に治療を考えてよいのだろうか」と迷う方は少なくありません。この記事では、見た目の気がかりと見え方の負担を切り離さずに考える、という視点から整理します。
- 大人の斜視では、見た目の気がかりと見え方の負担が重なっていることがあります。
- 治療は美容だけの問題にとどまらない、という指摘が文献にあります。
- 選択肢にはプリズム眼鏡、手術、ボツリヌス毒素の注射があります。
大人の斜視で気になりやすいこと
斜視とは、右目と左目の視線が違う場所に向かっている状態のことです。大人の場合、気になり始めるきっかけは大きく二つに分かれます。一つは周りから見える目の向き、もう一つは本人だけが感じている見え方です。
この二つは同時に起きていることが多いのですが、相談の場では片方だけが話題になりがちです。
見た目(目線が合わないと言われる)
外斜視は、遠くを見るときに出ると見かけの上で問題になりやすく、近くを見るときに出ると読書がしづらくなります。つまり、見かけの問題と作業のしづらさは、同じ一つのずれから出ていることがあります。
子どものころから同じ状態でも、進学、就職、人前で話す機会といった生活の変化をきっかけに、気がかりの大きさが変わることがあります。
見え方(二重に見える・疲れる)
成人では、二つにものが見えたり、両目で見ようとするとはっきり見えなかったりして、日常生活が困難になることがあります。間欠性外斜視のように出るときと出ないときがある場合は、疲れているときや体調が悪いとき、眠いときに外斜視が出ます。
一方、恒常性の外斜視で片目だけを使って生活している状態では、二重には見えない代わりに、立体視や3Dの感覚が失われます。二重に見えないことは、両目が使えていることを意味するわけではありません。
見た目の悩みについて研究が報告していること
斜視の心理社会的な面をまとめたレビューで、著者は次のように述べています。斜視は日常の活動を行う力をさまたげ、幸福感に影響する可能性があること。斜視のある人に対する否定的な受け止めが残っており、自己イメージの難しさを抱える人がいること。斜視の影響については誤解が多く、受けられる治療についての誤った情報が、医療につながる機会を減らしていること。
そのうえで著者は、斜視の治療は単に美容的なものではなく、複視のある人にもない人にも、心理社会的な健康と生活の質を改善する可能性をもつと述べています。
これは複数の文献を集めて整理したレビューでの著者の見解であり、どの人にどの治療が向くかを示したものではありません。
見た目が気になるという理由を、相談の場で言い出しにくいと感じる方もいます。そのときに手がかりになるのは、その気がかりが生活のどの場面で出ているか、という言い方です。人の顔を見て話すとき、写真を撮るとき、初対面の場面。場面に置き換えると、美容の話ではなく生活の話として伝わります。
大人の斜視の治療として挙げられる選択肢
大人の斜視で挙げられる選択肢には、次のようなものがあります。どれが優れているかではなく、それぞれがどんな場面で検討されるものなのかを並べます。
プリズム眼鏡
プリズムは、外斜視の治療方法として挙げられているものの一つです。間欠性外斜視では、ずれの量が小さい場合に、この光学的な方法や、両眼視機能の働きを強化する視能訓練(しのうくんれん=目の使い方の訓練)が行われる場合があります。
ただし、恒常性の外斜視のようにずれが常にある状態では、プリズムや視能訓練は効果が期待できないとされています。同じ「外斜視」でも、状態によって選択肢の並び方が変わります。
手術
斜視手術は、目の向きを整える手術です。外斜視では、ずれの量(偏位量)が大きい場合に行われます。
知っておきたい点として、術後に再び外斜視になる「もどり」が出ることがしばしばみられるため、手術の時期を含めて慎重な検討が必要とされています。一度で終わる前提ではなく、経過を見ていく治療として説明されることがあります。
ボツリヌス毒素の注射
目を動かす筋肉にA型ボツリヌス毒素製剤を注射する方法です。手術と比べた研究が行われています。
この方法と手術を比べたレビューでは、斜視が改善・矯正された人の割合は手術のほうが多い可能性があるとしつつ、根拠の確実性は低いと述べています。注射を受けた群では一時的な眼瞼下垂(がんけんかすい=まぶたが下がって目が開きにくくなる状態)が16.7〜37.0%、一時的な上下方向のずれが5.6〜18.5%にみられ、手術群の1本の研究では44.7%に不快感が報告されました。重い有害事象の報告はありませんでした。
これは海外で行われた4本の研究をまとめたもので、対象の年齢や斜視の型が異なります。日本での扱いは、診察を受ける医療機関で確認する項目になります。
手術を受けた大人の受け止めを調べた研究が述べていること
心理社会的な理由で斜視手術を受けた成人13名に面接した質的研究があります。手術から平均12.2か月(範囲4.5〜20か月)後の時点で話を聞いたものです。
著者は、見え方、作業のしやすさ、身体的な症状、自信や感情の面で幅広い改善が語られた一方、身体的な症状が悪化したという語りもあったと報告しています。そのうえで、心理社会的な理由で受けた手術であっても、予想されていた自信や感情面の変化に加えて、見え方や作業のしやすさの面でも変化が語られたと述べています。
この研究は13名の語りを整理したもので、手術の効果を測定したり比べたりしたものではありません。同じ変化がすべての人に起こることを示すものではなく、海外で行われた研究のため、手術の適応や費用負担の仕組みは日本の保険診療とは異なる場合があります。
費用のことをどう考えるか
見た目が気になることと、見え方に困っていることは、二者択一ではありません。どちらに当たるかを自分で切り分けてから相談する必要はなく、両方をそのまま伝えたうえで、検査と診察で状態が確かめられます。実際の扱いと費用は状態と医療機関によって変わります。制度のしくみは手術の費用と保険適用の記事にまとめています。
相談のときに、見た目と見え方の両方を伝えるために
診察では、片目ずつ隠して目の動きを見る遮閉試験(しゃへいしけん)のほか、視力、屈折(ピントの度数)、目の動きの検査が行われます。そこに本人からの情報が加わると、状況が伝わりやすくなります。
- 見え方:二つに見える/ぼやける/片目を閉じると楽になる/距離がつかみにくい。出やすい時間帯(夕方、疲れたとき)と場面も添えます
- 見た目が気になる場面:人と話すとき、写真、仕事や学校の特定の場面。「気にしている」ではなく「この場面で困っている」と場面で伝えます
- 経過:いつからか、変化があるか。子どものころの正面からの写真が数枚あると、経過が伝わりやすくなります
この調査に回答した施設の一覧があります。回答していない施設にも斜視を診ている医療機関はあり、一覧は推薦ではありません。お住まいの地域の一覧はこちら(すべての医療機関は、厚生労働省の医療情報ネット(ナビイ)でも探せます)
よくある質問
見た目が気になるという理由だけで相談してもよいのでしょうか
相談の理由に制限はありません。文献では、見た目の悩みで相談した人にも、見え方や日常の活動のしにくさが重なっていることがあると指摘されています。どちらに当たるかを自分で切り分ける必要はなく、気になっている場面をそのまま伝えたうえで、検査と診察で状態が確かめられます。
大人になってからでも治療の選択肢はありますか
あります。プリズム眼鏡、視能訓練、手術、ボツリヌス毒素の注射といった選択肢が挙げられています。ただし、ずれの量や、常にずれているか出るときと出ないときがあるかによって、検討される内容は変わります。恒常性の外斜視では、プリズムや視能訓練は効果が期待できないとされています。
手術を受ければ見た目は自然になりますか
結果は状態や術式によって異なります。斜視手術には、術後に再び外斜視になる「もどり」がしばしばみられ、手術の時期を含めた慎重な検討が必要とされています。手術を受けた成人に面接した研究でも、改善の語りとともに、身体的な症状が悪化したという語りが報告されています。
治療は保険がききますか
個々の適用や費用は、状態と受ける医療機関によって変わるため、診察の場で確認する項目になります。
参考にした資料
- 日本弱視斜視学会「外斜視」 https://www.jasa-web.jp/general/medical-list/strabismus/strabismus2(2026年9月10日閲覧)
- 日本弱視斜視学会「斜視」 https://www.jasa-web.jp/general/medical-list/strabismus(同)
- Buffenn AN. The impact of strabismus on psychosocial health and quality of life: a systematic review. Survey of Ophthalmology, 2021. PMID: 33773997
- Arblaster GE, et al. Patient perspectives on their outcomes from strabismus surgery undertaken for psychosocial reasons. Eye (Lond), 2024. PMID: 38907014
- Bort-Martí AR, et al. Botulinum toxin for the treatment of strabismus. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2023. PMID: 36916692


